植物は好きですか(後編)
昨日の続き。(昨日とタイトルを変えました)
しかし園芸界も広い。
一言に「ガーデナー」といっても色々タイプがあって、3~40代の比較的若い年代の女性がたくさん訪れるお店もある。
多肉植物やエアプランツ、ナチュラル系雑貨とアロマや草花を上手に組み合わせたショップ、またはそういったニーズをフォローしている園芸店である。
同じ園芸店でも、そのようなナチュラル志向の園芸店には高齢の客は少ない。
と、そこだけ見ると若い人も<植物>が大好きなように見える。
しかし<植物>に求めるものが昨日書いた高齢の客たちと若い女性たちとでは違うのである。
<植物>といえば、都会を歩いていると一回は必ず目に入る文字がある。
ボタニストという、オーガニックシャンプーやクリームなどを作っている企業のロゴだ。
このお店そのものもよく見るが、それ以上にこの店のショップ袋(・・・というのかトートバッグというのか知らないが)を持っている女性も多い。
あたかも「意識高い系女子」のシンボルとでもいうようにさりげなく肩に下げていたりする。
その「意識」とはほかでもない、ライフスタイルや美容に対する意識だ。
「ボタニスト」という響きからも分かるように、この企業のコンセプトは
<植物とともに生きる>(HPより)
である。
表参道にカフェもあって、そこはコウモリランやエアプランツ、シダ植物などが天井からぶら下がる、一見園芸店と見まがうような概観の、緑に囲まれたお店である。
しかしこの会社のいう「植物」と、年配の人たちが思う「植物」とは同じではない。というか、かなり隔たりがある。
おそらくボタニストにとってツツジやサザンカやゼラニウムは彼らの言う「植物」に入らない。ペチュニアもベゴニアも入らないし梅も松もサルスベリも入らない。
オリーブは入るだろう。シマトネリコも入るだろう。
だがビャクシンは入らない。
なんでやねん、と思うだろう。
見えない基準があるのである。
彼らの言う<植物>とは、インテリアになりうる、都会的に洗練されたトレンディーな植物のことを言うのであって、我が家のような古臭い家の庭に植わっているような庭木は彼らからしたら「ゴミ」以外の何物でもなかろう。
それはそれで別に構わない。
ただ、そんな偽善的な理念の会社があたかも植物を愛しているかのような顔が出来るくらいだから、現代における<植物>の意味するもの、喚起するイメージが、昭和のそれとはだいぶ違ってきているのではなかろうか、と言いたいだけである。
植物大好き、でも庭は要らない。
植物のある空間が好き。でも木の名前なんか知らない。どうでもいい。
それではかなしい。
若い世代がせっかく緑や植物を「いいな」と思っても、広がっていかない。奥へ進んで行こうとしない。表面だけで満足してしまう。
売るだけ売って「おしゃれ」と評価されるだけでよしとしてしまう、ナチュラル系ビジネスの功罪と限界がそこにある。
「植物」や「緑」をイメージ戦略と話題作りに利用しているだけで、本当の意味での<植物のある暮らしの楽しさ・豊かさ>は提供していないように感じる。
僕は別にボタニストに恨みがあるわけではない。
植物とライフスタイルを結びつけ、オーガニックでナチュラルな都会生活に憧れる女子のハートを巧みに掴んだと思う。
ただ、ボタニストに限らず「それ系」のショップや空間で使われている植物が、判で押したようにいつも一緒で、いかにも馬鹿の一つ覚えなのが残念である。でっかいキセログラフィカやコウモリランをお洒落に飾りたい気持ちは僕にもあるが、別に同じ空間に花があったっていいじゃないかと思うのである。でもナチュラル志向の人たちはどちらかというと花よりプランツが好きである。
とまあ、そういうわけで、一概に<植物のある暮らし>といっても年配者と若い世代とではイメージするものが全然違うし、<園芸愛好家>とか<植物好き>と言っても、とんでもないジェネレーションギャップがそこにはある。いや同じ若い世代でも僕のような安苗満開の「胸キュン♡アホ庭」を目指している者もいれば、そういう庭は管理が面倒だしちょっとゴテゴテし過ぎていると感じる人もいよう。
人それぞれだからそれは全然構わないが、ナチュラル志向があまりにも多数派になると、おそらくこの国から庭は消える。
ただでさえ地価が高いのに、 「シンプル」「飾らない」「都会的」「省スペース」「清潔感」・・・そんな価値観で家を買おうとしたら、庭ほど無用なものはないからだ。
しかしいま60代くらいの人までは、その無用の長物を所有することが逆にステータスなのだと思うことが出来た。いわゆる「庭付き一戸建て」というやつだ。
その世代が購入した家々が今、どんどん解体されて庭のない3階建てや「タイムズ」に変わって行っている。
「植物とともに生きる」というのは、エアプランツの飾られた部屋でオーガニックの化粧水を使うことではない。
実際に触って、植えて、水をやり、収穫し、剪定し、落ち葉をはき、株分けし、花を見、その作業の合間にコーヒーを飲むことである。
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2018.04.18 | | 園芸コラム
