カマキリ

「オミナエシの葉っぱに蜂の巣みたいなのが出来てるの」
夕暮れ。こっちは両手に水一杯のバケツを持って駐車場に向かうところだった。それに急いでいた。出掛ける時刻が迫っていたのだ。
「へえ~」
生返事して通路を下る。オミナエシは通路に植えてあるが一瞥もせずに通り過ぎ、家の隣の駐車場へ向かった。
バケツを置き、スポンジに水を吸わせて頭から拭いていく。水洗いの後はワックスをかける。車が汚いと遠出をする気になれないのだ。
近くで足音と、何かがガチャガチャ鳴った。
車のボディから顔を上げると、子供が二人そこにいた。1人は虫捕り網を、1人は肩から虫かごをぶら下げている。動くたびに虫かごがガチャガチャいう。虫を見つけたときのために小枝やら石やらを入れてあるのだ。
セミを獲るには遅すぎる。蝶もこんな駐車場にはいない。大体、何で目と鼻の先に公園があるのにそっちに行かないのか。邪魔である。僕の車しか停まっていないとはいえ、狭い駐車場である。振り回した網が車に当たったらイヤである。車が傷つくのを心配しているんじゃない。当たったら「おい」とか「こら」とか言わないといけない。それが面倒なのである。子供と口を利くのがイヤなのである。
子供らは僕の存在などお構いなしにこちらに近付いてくる。隣の敷地からこちらにせり出している雲のようなコニファーを見上げながら、カニ歩きで近付いてくる。
「いないなあ、カマキリ」
「あーあ」
ボンネットを磨く僕にも届くくらいの大きな溜息。
「この前はここにいたのに!」
カマキリを探しているならこんな所からはさっさと消え失せることだ。もっとも、10月の住宅街のどこにカマキリがいるのか僕には分からないが。
「出てくるまで待とう」
「うん」
冗談じゃない。
と思ったが、そこは子供。言うこととやることが支離滅裂である。待つといいながら自転車のところまでかけて行き、また戻ってきて、1分ほどコニファーを眺めていた。
そうしてまた自転車まで戻って
「帰ろう」
「帰ろう!」
彼らの声が坂の向こうへと遠ざかっていくのを僕は聞いていた。

最近の子供は昆虫が嫌いだそうで、とうとうジャポニカ学習帳の表紙から昆虫が消えた、という記事を読んだ。代わりに表紙は花がメインになったという。
ガーデナーとして悪い気はしないが、虫に興味を持たない子供ばかりになるのも寂しい。
そういう自分は虫ギライ。
でも子供の頃はそれほどでもなかった。7歳から1時間に1本しか電車の来ない房総半島の田舎町で暮らすようになって、虫や爬虫類や川の生きものには慣れ親しんできたつもりである。カマキリの1匹や2匹、1時間もあれば捕ってこれる自信がある。・・・夏ならね。
洗車を終えて空っぽのバケツをぶら下げながら通路を上がって、ふと思い出した。
オミナエシの葉っぱに蜂の巣があるって?
手すりから身を乗り出して葉を覗いた。

これは蜂の巣ではない。
どう見てもカマキリの卵である。奥さんを呼んでそう言ったら
「え!カマキリってこんなのから生まれるのー」
だって。
都会育ちでもないくせに分からない人もいる。
僕の記憶が確かなら米粒のような色をした小さい小さいカマキリの赤ん坊がたくさんここから生まれる。
さっきの子供たちに教えたら喜んだろう。
奥さんを無視して洗車に行ったことを悔いた。

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2015.10.08 | | 園芸コラム

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Author:yuhei
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