コーガから来た女

数日前、道を歩いていたら大柄の黒人女性に話しかけられた。
「ココドコデスカ」と片言の日本で言いながら持っていた紙を指差す。
駅周辺の見取り図で、彼女の黒く大きい人差し指は「immigration law office」と書かれた四角いマスを指差していた。
正確な意味は知らないがその英語が壁に記された建物なら知っている。法務局のことである。近所の法務局には入国管理局の出張所が入っていて、この辺りでは外国人を多く見かける。彼女もそうだろうとピンと来た。
自分も同じ方向だったので、下手な英語で「一緒に行きましょう」と言った。
二人並んで歩き出した。
ここから法務局まで10分はある。格好つけて「一緒に行きましょう」などと言ってはみたものの日本人女性とですら間が持たないのに言葉の通じない相手とどうやって10分間も間を持たせるというのか。
「どこから来たんですか」たったそれだけの英語を口から出すのに1分以上かかった。
「コーガ」
そう聞こえた。コーガなんて国名は聞いたことがない。あ、コンガだコンガ。
「アフリカ?」
彼女の顔が曇った。黒人だからってアフリカ出身だと思うなよコンチクショウと顔に書いてある。
「ジャマイカ」彼女が言った。
「ジャマイカから来たの?」
「イエスイエス」
ジャマイカのコーガか。そうだよ、コンガって楽器の名前じゃねえか。
「ボート」と唐突に彼女が言った。
「ボート?」船?船で来たのか?え?難民?
分からずにいると彼女が立ち止まり、足を曲げて両手で空を指差すようなポーズをとる。
「ボート」
それでやっと分かった。
「あ!ボルトね!ウサイン・ボルト?」
「イエース」
「彼もジャマイカ人?」
「イエスイエス」
「へー・・・・・・」
そこから続かない。
頭の中でジャマイカが回る。ジャマイカジャマイカジャマイカジャマイカジャマイカ的なもの何かないか。ジャマイカに関係するものなら何でもいいぞ。俺の脳みその引き出し全部ひっくり返してでも探し出せ!ジャマイカを!
「クールランニング!」
僕は半ば叫んで言った。

彼女の顔が一瞬固まり、それから「yah、クールランニン・・・」と引き気味に笑って、「ボブスレイニング」と言った。
「そうそう、ボブスレーボブスレー」
待てよ俺、ボブ・マーリーはどうした!ジャマイカといったらボブ・マーリーだろ!
よりによってなんで「クールラニング」やねん!お前の中でどんだけ思い出深い映画やねん。こんな極東の島国でその名前聞くとは思わなかったわ!
って思われてるよ絶対。
でも彼女は優しかった。
「ユア・イングリッシュ・イズ・グッド」と言ってくれた。
ジャマイカ人もお世辞を言う。と思ったら彼女は英語の先生だった。先生として褒めてくれたらしかった。
「さいたまに住んでるの」
「いいえ、コーガ」
「コーガ・・・」
またコーガだ。黄河なワケないしコンガは楽器だし
「イーバラーキ」と彼女が救いの手を差し伸べるように言った。
イバラキのコーガ
茨城のこーが・・・・
「茨城の古河!?コーガって古河!?」
「yah yah、42ミニッツ、バイトレイン」
茨城の古河かよ!いい加減にしろよ。
そうこうしているうちに法務局の前に着いていた。入管の入り口まで案内して「OK?」と言ったら「アリガト」とお礼を言われた。それで別れた。

恥もかいたが黙って歩くよりは楽しかった。
いま、小学生から英語教育をさせようと文科大臣が張り切っていて、自分は英語ペラペラな人たちがそれに反対している。彼らは言う。「何語で話すかより何を話すか、だ」と。英語が話せても軽薄なヤツは軽薄なままだ。自国の歴史や文化をきちっと備えた日本人を育てるのが先だと。
ジャマイカと聞いて「ク-ルランニング」しか思い浮かばないような僕には耳の痛い意見だ。
だからこそ英語は話せるようになりたいと思う。
英語が出来たら即座に
「おっと、この映画の名前を出すのはクールじゃなかったな!(笑)」
ってごまかせたのだ。
それが出来ないばっかりに「クールラニング」なんて微妙な映画を思い出させておきながら平気な顔で道案内できるアホな東洋人のまま終わってしまったではないか!
これって僕がジャマイカに行って現地人に「日本日本日本ねえ・・・う~ん、・・・ああ、『ミスター・ベースボール』は観たよ!」って言われるのと同じだよ。犯罪的だよ。
って、こういう話を英語で出来たらな~・・とちょっと思う。(英語で話してもアホな話に変わりはないんだけど)

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2015.09.14 | | 未分類(日常、随筆)

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