この家の守護天使

この家に入居、賃貸契約することになった経緯はちょっと複雑で、大家さんからカギを預かり僕たちをこの家へ入れてくれたのは正式な仲介業者ではなかった。後に大家さんの幼馴染と判明する今の担当者K氏がA社だとすると、内見に連れて行ってくれたのは競合他社B社のヒトだった。
最初に千葉からさいたまに越してきたときもB社で家を探し、その後の転居もすべてB社に頼った。そういう信頼もあって本当はA社に連絡するべきところ一か八かで無関係のB社に相談したら、「うちでもご案内できます」と言い切った。
不動産業界の内情は全く知らない。宅建の資格を取ったとき、テキストに同業者同士で報酬を分け合う仕組みについて書いてあったから、A社としても多少でも分け前がもらえれば競合他社だろうが入居希望者を連れて来てくれるなら御の字だったのか。
(参考までに今年から「宅地建物取引主任者」という名称から「宅建士」に変わったそうだ。まあ確かに、「主任」じゃなく「主任者」って何?って感じだったもんね。まあ、そこがダサカッコよかったとも思うけど)
とにかくこの家の契約には2つの不動産仲介業者が絡んでいる。
B社の彼は彼でとてもよくやってくれて、家賃を○万円も下げる値下げ交渉で大家さんからOKを取り付け、入居者(僕ら)による負担ゼロで可能な限りこちらの希望に沿ったリフォームをすると確約してくれた。
変則的なルートだったが、まずB社に相談してよかった☆と思ったものだ。
その時は。。。
前にも書いたと思うが、この家はヒドイ状態だった。
庭は言うに及ばず、玄関を開けた瞬間に「この話は無かったことに」ときびすを返して帰ろうと思ったほど荒れていた。
壁紙も床も古文書みたいな色に見えた。おまけに所々剥げたり破れたりしてとても汚かった。廊下を歩けば濡れた砂浜を歩いているみたいに足が潜った。床が抜けていたのだ。階段には虫が仰向きにひっくり返っているし、居間は廃校の音楽室を連想させた。(床がカーペット敷きだったのだ)
それをB社指定の業者が1ヶ月で新築そっくりにピカピカにするという。
そしてそれは実行に移された。
が、結論から言うと、その工事は満足のいくものではなかった。
工事完了直後はそれこそ「なんということでしょう」と言わずにはおれない変身振りだったが、事務所に使う予定の1階の8畳の和室に足を踏み入れて、カチンと来た。
床が少し柔らかい。。「この部屋は事務所にするから絶対に床をカチカチにしてくれ」と口をすっぱく言っておいたのに、沈む箇所がある。
廊下も最初こそ硬かったが、半年ほどするとまた少し軋むようになり、今では踏むのがためらわれる場所が出てきた。なんともなかったトイレの床まで沈みそうな勢いである。
手抜き工事をされたようだ。
仲介はB社だったが、保守管理・相談はA社である。(今ではB社とは完全に切れている)
このA社の担当がうちの大家さんの大親友で、小学生の頃この家で「かくれんぼ」やゲームをして育ったK氏である。担当者としてこれ以上ふさわしい人はいない。
土曜日、そのK氏が家に来た。
電話で事前に説明してあったから、玄関先で挨拶するなり「いいですか」と言って廊下に四つんばいになって写真を撮り始めた。
「こりゃ抜けてますね」
床を手で押しながら言う。
それから3時間ほど話をして、彼が大家さんと業者に話をして見積もりを取り、最善策を考えてくれることになった。
ちなみに床を直す大工さんもこの家で「かくれんぼ」をして遊んだ親友のひとりである。ズッコケ3人トリオの1人が家主で、1人が不動産屋になり、1人が大工になったというのだからドラマみたいな話である。そしてその3人の男たちのドラマの始まりが「この家」なのだ。
K氏は大人になっても空き家となったこの家を気に掛け、夏には他のスタッフを引き連れて除草作業にも来ていたという。
「ジャングルですよ!よっぽど除草剤撒こうかと思いましたけどね、おじいちゃんが昔ここで畑やってたの知ってますから。撒けないですよね」
グッジョブである。
おかげでスギナも元気に育ったが、こうして心置きなく家庭菜園が出来る。こういう機転の利く人が担当で本当に良かったと思う。
自分たちが来る前のこの家の話を聞くと、なんだかとても心が温まる。他人の家なのに、記憶にはない幼いときの自分の横顔や後姿を見ている気がする。そしてそれをもっとも温かく、そしてドラマチックに語れるのがK氏なのである。
「うちの実家、すぐそこなんですよ」1時間前に僕が淹れたぬるいアイスコーヒーをストローでかき混ぜながら、K氏が言った。
「夏休みなんか連日、僕がこの家に泊まりに来たら、○○(大家さん)がうちに泊まりに来て・・・その繰り返しで」
そういえば入居してすぐのころ、通路の土を耕していたら「○○ちゃん、帰ってきたの!」といきなり声を掛けられた。振り返るとご近所さまらしき中年の女性が立っていて、「○○ちゃんでしょ?あ、もしかして○○ちゃんだった?」と僕の顔を覗き込む。
その名前は大家さんの名前であり、もうひとつは大家さんの兄弟の名前である。
年格好が似ていたのだろう、僕は笑って事情を説明した。○○さんは大家さんで、自分はここに越してきた住人だと。
オバサンはごめんなさいと謝って、少し残念そうに笑った。
そう考えると、僕を大家さんと間違えて声をかけてきたのはもしかしたらK氏のお母様だったのかもしれない。
「どーもすいませんっ・・・長々と」
K氏がぬるいアイスコーヒーを飲みきり席を立った。
「いえいえ」
外はもう暗かった。エアコンをつけていた部屋を出ても、同じ温度だった。
「じゃ、またお電話いたしますので!」
閉じられるドアの隙間でコオロギが夏の終わりをささやいていた。軋む床のことなど忘れている自分がいる。
この家に守護天使がいるとしたら、それはきっと彼なのだろう。

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2015.08.24 | | 未分類(日常、随筆)

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