柿にまつわるショートストーリー

収穫した柿は日曜日に送り、翌日双方の実家から感謝のメールがきた。それでもまだ山のように残っている柿を近所に配って回った。奥さんは仕事で手一杯らしかったので僕一人で回った。
隣接しているお宅は比較的高齢の方が多い。一応、柿はOKかNGか訊いてみてから渡すようにしたが全員快く受け取ってくれた。
2軒のお宅でそのお宅の庭の柿の木を見せられた。うちにも柿があるんだけど実らないと言う。前の家のおばあさんには「消毒か何かしてらっしゃるの」と訊かれたが何もしてない。樹齢の問題だろう。うちの柿は30年前から植わっている。
今朝、二階のベランダで奥さんと洗濯物を干していたら横の奥さんが塀越しに自分たちを見上げて礼を言いつつ、「あれはまだ早いんじゃないかしら。もっと熟れてから収穫したらまた食べさせて」と感想を寄越してくれた。確かにまだ青みが残る、硬めの状態で渡してある。熟れた状態で渡すともらった方も「早く食べなければ」と焦るだろうと思い、あえてそうしたのだ。自分のペースで食べられるように、また、さらに別の誰かにもあげられるように。
もっとも横の奥さんがクレームを言っているのでないことは分かりきっている。もらった柿は熟れるまで待って食べるつもりだがもっと赤くなってからまた収穫して食べさせてくれと言っているのだ。
ちなみにうちの柿は横の奥さんの家の屋根にも半分かかっているので、その家からもうちの柿はよく見える。
「それにしても去年はそんなに実ってたかしらね~」と不思議そうに言う。
「そうなんですか」
「人が住むと実るのよ」

僕たちの前に住んでいたのは老人である。いつから、どういう経緯で、いつまでここに住んでいたか正確なことは分からないが、老人であったことは確かだ。通路には段差がなく、階段に手すりがあり、高齢者用の緊急ダイヤルを記したステッカーが玄関の扉に貼ってある。この家を少年時代から知っている不動産屋のK氏の口から一度「おばあちゃん」と聞いた気がするので老婆が一人で住んでいたと勝手に想像している。
数週間前、その老婆を訪ねて来た人がいる。
玄関先でタバコを吸っていたら爽やかな声で挨拶された。門戸からずんずん上がってきて僕の前に立ち、通路の花を褒め、ハンギングを見上げて「おはながいっぱい!」と言った。それからバッグをまさぐって名刺を見せた。介護福祉プランナーだか福祉介護プランナーだか、そんな肩書きだ。
「ここに、おばあちゃん住んでませんでした?」と彼女は言った。たまたま近くに来たものだからどうしてらっしゃるのかなと思って前まで来たら、お花がいっぱいで。つい上がって来ちゃった。私も好きで、家でやってるんですけどね・・・こういうのは、女性の方が植えてらっしゃるんでしょう?」
「全部僕です」即答した。それから付け加えた。「奥さんも

「庭の木は・・・変わってないようだけど」おばさんは体を反転させて柿を見上げ、ふと我に返ったように僕にいつからここに住んでいるのか聞いた。僕は答えて、逆に彼女に質問した。そのおばあさんはここに一人で住んでたんですかと。
「そう」と彼女は言った。「だったと思う」
ホームに入ったか、家族が引き取ったか、亡くなったか。僕は想像上の老婆を、彼女は薄い記憶の中の老婆を思って黙った。
去り際の合図のようにニコリと笑って彼女は会釈し、「お邪魔しました~」といい去って行った。
僕はタバコを捨て、玄関のドアを開けた。
背中でまたひとつ柿の実が落ちた。

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2014.09.30 | | 園芸コラム

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Author:yuhei
築30年の借家でホームオフィスをしながら理想の庭づくり、理想のインテリアを探求する日々の記録。
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