導火線に火を付ける人たち

岩手県陸前高田の景勝地「高田松原」の松の木を京都「五山送り火」のひとつ「大文字」の護摩木として使う計画が一部の反対によって中止に追い込まれた。放射性物質が怖い、というのがその理由だ。松からセシウムは検出されていないが、京都市は不安視する市民の声を重んじて中止を発表。すると今度は「なぜ中止するんだ」「京都の印象が悪くなる」といった中止反対の電話が殺到し、市は陸前高田市に対し再度受け入れを表明。しかし届けられた松を再度検査してみると、松の皮の部分からセシウムが検出されてしまった。皮は燃やさないのだが、それでも「セシウム検出」という事実は中止反対を叫ぶ人々を黙らせるのに充分だったらしく、結局「大文字」での使用は見送られることになった。その後、千葉県の成田山新勝寺が松を受け入れることになったのだが、これにもまた「反対」の声が上がっているという。

京都市民は全国から「冷たい」「被災者の気持ちをないがしろにしている」などと批判を浴び、企画したボランティア団体は反原発派から「そんなに放射性物質を拡散させたいか!」と因縁を付けられ、挙げ句の果てには陸前高田市までが「押しつけ」「ゴリ押し」と、まるで廃棄に困ったゴミを他県に処分してもらおうとしているかのような非難を受ける・・・。さらに成田山新勝寺のある千葉県民に対しては「千葉はもう汚染されてるからいいじゃん」といった理解があるのか無いのか分からないような声まで聞こえてくる始末。

 

この騒動を見ていると、導火線に火のついた爆弾を慌てて投げ返すアニメのキャラクターが目に浮かぶのだが、導火線に火を付けたのは京都市長でも京都市民でもましてや東電でないのは明らかである。では誰が火を付けたのかといえば、こういうことに長けている人たちである。
ニュースにすることで大衆の関心を引き、ネガティヴな雰囲気を作り出すコツを心得ている人たち、である。それは、中止発表の翌日に常識的な京都市民から「なぜ中止するんだ」「中止を撤回しろ!」という電話が300件近く寄せられ、回線がパンク状態に陥ったという事実からも明らかである。不安視していたのがほんの一握りの人たちに過ぎなかったということだ。だからこそ市長は前言撤回し、再度受け入れを表明したのである。しかしその手の人たちは数は少なくても政治家への圧力のかけ方も長年の経験から心得ているので、市長の翻意を促すことくらいお手の物である。そして京都には特にこの手の人々が多い。

僕はいま「圧力」といったが、この手の人々はそれを圧力とは思っていない。むしろ彼らは、自分たちこそが「圧力」を受けていると思っている。どんな圧力かというと、「復興ファシズム」という名の圧力である。「被災地のことを考えたら放射線物質くらい我慢しろ」「被災地の人たちはもっと苦しんでるんだぞ」「関西人は汚染されてないから分からないんだ」―・・・
こういった「正論」で押し切ろうとする勢力を「復興」を名目に協力を強制する一種のファシズムだとし、反発する。そして日本人のいわゆる「惻隠の情」までをも否定し、情や善意につけ込んで他県に汚物をばらまこうとする被災地の野望を打ち砕かんとやっきになっているのである。多分、こういう人たちが内閣支持率13パーセントの正体なのだろう。


確かに「かわいそうだから」とがんがん汚染物質を受け入れられたらたまったものではないが、このような非常時にはある程度痛みを共有するのも同じ国に住む人間として当然だと僕は思う。ましてやたかだか500本の、しかも「汚染」と呼べるほど汚染されてもいない薪を燃やすだけの話である。「悪い前例」になるという意見があるが、そういうのを「げすの勘ぐり」というのである。東北の人たちを一体何だと思っているのか。

他県の人間から見ると今回の京都市の対応は冷酷に映るかも知れないが、恐らく、大半の京都市民にとっても不本意な結果だったろう。訳の分からない政治力によって、せっかくのセレモニーを台無しにされたと思っている人も少なからずいるはずだ。
本当に冷酷なのは誰か、そして本当に「情」に流されやすいのは誰か、よく分かる出来事だった。


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2011.08.17 | | 放射能・汚染腐葉土

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