父の入院

父が入院した。息苦しいので病院に行ったら肺に異常が見つかり、ウィルス性の肺炎(らしきもの)に罹っていることがわかったのだ。車がないので病院まで連れてってくれというので昨夜父のマンションへ行き、翌朝、病院まで一緒に行って看護士の説明やら血圧測定やらに付き添った。母は当然のことながら、兄はこの男を自分の親だと思っていないので僕が面倒をみる。
父はまだ50代なのだが、ここ二年ばかり、会うたびにやつれていくので心配はしていた。しかしやつれたのは肺炎のせいではない。肺炎は結果であり、原因は過労による疲労と体力低下だと父は言う。僕もそう思う。

父はお世辞にも<人生の成功者>とは言えない境遇にある。本人も幸せだとは思っていないだろうが、60手前にもなって一日9時間も立ちっぱなしで皿を洗ったりシンクを磨いたりしなければならないというのは不幸である。世間ではこういう人を<ルーザー>という。
とはいえ、別に天変地異に見舞われたわけでもなく、国の政策の犠牲になったわけでもなく、自分で作った泥沼に足を取られて身動きが取れなくなったと言うほかないのだから自業自得と言えばそれまでである。

しかしそうやって切り捨てて知らぬ存ぜぬで通せないのが家族というものである。父が泥沼に沈んだ時、母と兄はこの男の魔の手から逃れるべく身を隠したが、母とも兄とも父とも離れて暮らしていた僕は逃げるどころか、もはや父だけが残った(形だけの)実家に奥さんを連れて行って紹介し、一緒に映画を観てしまった。母と兄の話を聞けば今自分が父親だと思っている人間がいかに救いようのない男かイヤというほど思い知らされるのだが、父と縁を切るほどの事情が二人にはあっても僕にはないのであった。
だから最初は複雑そうな顔をしていた母も今では諦めて、むしろ僕が奥さんと一緒に父の家に行くことを薦めるまでになった。兄は死んでも会わないと言う。だから入院のことも言っていない。

こうして何となく父の面倒は僕が見ることになり、肉体的にボロボロになった父親を病院まで連れてゆき、入院の手続きに同伴することになったわけである。

前日は仕事を早めに切り上げて、車で3時間の距離にある父の家まで行った。僕の夜食も兼ねて持って行ったスーパーの寿司を出したら、「ありがとう」と言って自分の前に引き寄せ、全部食った。それから信じがたいほど低俗なバラエティ番組を一緒に観て、寝た。

布団を敷いて電気を消すと、父が寝ている隣の部屋からこれから眠るとは思えない音量で音楽が流れ出した。

「ゲロッパ!」「ゲロッパ!」♪

5分もしないうちに父のイビキが聞こえ出した。しかし「ゲロッパ!」♪は流れっぱなしである。

さっき、父と縁を切るほどの事情が二人にはあっても僕にはない。と書いたが、たとえあったとしても、僕は母や兄のようにはならないと思う。

僕と父は同人種なのだ。

入院前夜に、しかも爆音でジェームズ・ブラウンを流しながら眠りにつこうという男を、僕は他人とは思えないのである。

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2012.11.08 | | 未分類(日常、随筆)

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