ぼくの小説離れ

最近、小説をあまり読まなくなった。代わりに、新書や伝記、ノンフィクション、それから週刊誌を多く読むようになった。
最近買った小説はロアルド・ダールの短編集「あなたに似た人」と、E・ブロンテの「嵐が丘」の二冊のみ。なぜこの二冊なのか自分でもよくわからないが、とにかく「活字離れ」ならぬ「小説離れ」が僕の中で進行中のようだ。
以前は週に1冊くらいは小説を読んでいた。二日二晩「赤と黒」を読みふけっていたり、徹夜して「カラマーゾフ」と格闘したり、歯医者にボネガットを持参して麻酔を打たれながら「猫のゆりかご」を読んだりしていた。頭が悪いから放っておくと内容をほとんど忘れてしまうのだが、それでもまあ、読むことは読んでいた。それが今じゃさっぱり、想像の羽を広げて架空の世界を飛び回ることもなく、名台詞に線を引いたり、絶妙な比喩に膝を打ったりすることもなくなった。
どうしてこうなっちゃったのか自分なりに分析してみると・・・多分、現実社会に不満が多すぎてそれどころではないからだ、という結論に達した。虚構の世界にどっぷり浸かるには、今、この国には問題が多すぎるのだ。僕にとっては。

では僕をフィクションから遠ざけている「問題」とは何か。それは、この国の腐敗である。
政府は平気で嘘つき、マスコミは嘘を見て見ぬ振りして垂れ流し、国民はそれを信じる。そうやって意味不明なコンセンサスと世論が形成され、「地デジ」のような誰も得をしない(家電メーカーでさえ得をしない!)政策が推進され、明らかに親の遊ぶ金にしかならない「子ども手当」などというボーナスがばらまかれ、嫌悪感だけで一人のベンチャー企業家に2年の実刑が言い渡され、挙げ句の果てには情だけでしかものを考えられない馬鹿国民によって増税がなされようとしている。こういう状況への不満と怒り、そして真実への飢餓感が、僕を文学から新書やブックレットへ向かわせ、挙げ句の果てには「週刊現代」やら「週刊ポスト」やらといったこれまで「低俗」と軽蔑していた週刊誌にまで走らせるのである。

当然だが、「三四郎」の中には「東電救済スキーム」の矛盾について書いている箇所はない。スティーヴン・キングは色々「ありえねーっ!」な小説を書いているけれど、さすがに情報を隠蔽していたずらに住民を被爆させておきながら自分は権力にしがみつこうとする宰相の話など書いていない。ましてや「人の悪口は言わない。時事的な問題は避ける」をモットーにエッセイを書いている村上春樹など論外。
もちろん漱石には漱石の価値が他にあり、キングにはキングの魅力がある。なにも村上春樹が口汚く管直人を批判しないからといって、彼の作家としての力量に疑問符が付くわけではない。ただ、今の僕は「日本で一番おいしいウーロン茶を目指して書いた」とかいう村上春樹の文章を読む暇があったら、官民挙げての地デジ推進の内幕を暴いた本を読みたい。週刊誌の「原発マネーに群がった政治家、学者、マスコミ」という記事を読みたい。ニコニコ動画で自由報道協会の会見を観たい。もうこれ以上欺されたくないのだ。政府に。メディアに。


小説は心を豊かにする。教養も身につく。ユーモアも解せるようになる。人間に対する理解も深まる。国家権力の恐ろしさや大衆の愚かさを描いたものも数限りなくある。リテラシーも身につき、自分で物事を考えられるようにもなるだろう。だから決して小説を読むことは無駄ではない。それに、こういうときだからこそ一歩下がって小説世界に身をゆだね、頭を冷やし、心を落ち着かせる、というのも一つの読み方だとは思う。出来ることなら僕だってそうしたい。正直言うと、日に日に活字の海を漂うあの感じが恋しくなってきている。
その恋しさが押さえきれなくなって・・・というわけでもないが、昨日、書店で久しぶりに小説を買ってしまった。ポール・オースターの「ミスター・ヴァーディゴ」という本だ。半ページ読んで僕の中で封印されていた何かが動き出し、抗しきれずにレジに直行した。面白い。「偶然の音楽」で「オースターも終わったな」と思ってしばらく距離を置いていたのだが、これはイケる。まだ半分も読んでいないので何とも言えないが(オースターは後半で息切れする嫌いがあるのだ)、久しぶりに文学のパワーをもらった気がした。村上龍がこの間何かのインタビューで「僕は若い頃谷崎とか大江健三郎とか中上健次とか読んで、『ああ、これで明日も生きていけるな』って思ったもんなんですよ」と言っていたのを思い出す。
しかしパワーはもらっても、残念ながら「これで明日も生きていける」というほどではない。面白いが、救いにまではならない。

民主党政権が続くかぎり、僕のこの「小説離れ」は収まりそうにない。


hikaru_ba
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2011.05.20 | |

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