失われたチカラ

今日は短編小説です。(※写真と文章は関係ないです・・・(-_-;) )

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彼はすっかりフヌケになった。

牙を抜かれて、毒の混ざった血液は中和され、蒸留された。鉄製のコンテナも切り裂いた硬いツメは放置自転車のチェーンのように錆びつき、翼はもぎ取られ、片翼はホウキになり、もう片方の翼はトイレのマットになった。
洗濯機を回しながら天気予報を見ていなかったことを後悔し、芳香剤のニオイに感動するようなニンゲンになった。インゲン豆みたいに簡単で単純で1+1は2の生活に満足するようになった。暗闇でも10キロ先までくっきり見渡せたハイテクの眼球も今ではスマホに疲れて役に立たない。
彼はかつてはスーパーヒーローだった。

ビルから落ちた子供を間一髪で拾い上げたり、火事場に突進するタンクローリーを持ち上げて大惨事を未然に防いだり、狂った博士が発射したロケットをビーム光線で爆破したりした。人々は彼の周りに輪になって口々に感謝や祝福の言葉を叫んだ。ありがとう!ありがとう!すてきー!抱いてほ-るどおんみー!

「パワー」は永遠に続くと思われた。使えば使うほど強くなっていくような気さえした。根拠のない自信が彼を奮い立たせ、また、輝かせてもいた。敵はみんな自分より小さく見えた。指先で将棋の駒を弾くように敵を蹴散らせた。美しい女たちは彼の竜巻のような胸毛と純白のシーツの間に生き埋めになったまま快楽のジェットスキーで宙をくるくると舞った。彼は全てを手に入れ、全てを与えることができた。
「パワー」はブレーカーが落ちるように突然なくなったりはしなかった。
彼自身でも気付かぬほどさりげなく、やさしく、タンクから一滴ずつ水が漏れていくような緩慢さで、彼の皮膚から立ち消えていった。
少しずつパンチには重みがなくなり、2年もすると、ビルの20階まで飛び上がれたのが4階までしかジャンプできなくなった。老人を背中で庇って暴走車に激突されたとき、「痛い」と思った。以前は蚊が止まった程度にしか感じなかったのに。
最悪なのは、ビーム光線が間違って一般人に命中してしまったことだ。当たった相手は黒こげになった。
彼は明らかな異変を感じた。

気付くと警察が彼のネグラを包囲していた。彼はもう誰からも愛されるスーパーヒーローではなくなっていた。ただの中途半端に強い鼻持ちならない目立ちたがり屋のスットコドッコイだった。
窓が撃たれ、外光が薄暗い室内に一筋の黄金のロープを張ったように見えた。
かつての彼なら、飛んでいる銃弾にサインをして送り返すことだって出来ただろうが、今は当たればどうなるか分からない。
彼は両手を挙げてネグラから外へ出た。
わっと警察隊が彼を取り囲んで、警官たちの黒い、安っぽい革靴に耳たぶを踏まれた。
彼は土ぼこりに咳き込みながら、自分がス-パーヒーローだった頃を思い返した。
ひっくり返した新幹線や退治した強敵、殺したライバルの顔がよぎった。救けた人たちの顔や夜をともにした女たちの顔はボヤけていた。

いつかこういう日が来ると思っていた。
と、彼は思いたかった。
でも、そんな日が来るなんて、彼はたったの1秒も考えたことがないのだった。失うことのないパワーだと信じていた。
そんな自分を間抜けだとも思わなかった。むしろ信じないヤツのほうがオカシイとさえ思った。また「パワー」が手に入っても、俺は失った時のことなんて考えるものか。考えられないのだ。信じて何が悪い。
閃光が走った。
顔を上げると警官たちの肩越しにパシャパシャとフラッシュをたくカメラマンや野次馬がうごめいていた。
何か質問されたが、よく聞こえなかった。
ただ、踏まれた耳たぶがずっとひりひり痛かった。  /終

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2017.01.16 | | 未分類(日常、随筆)

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