恩着せ商法にご注意を

昨日、母の家に行ったことは既に書いた。
到着すると母の車が車庫から家の脇の藪に横付けされていた。
「私たちのために空けておいてくれたのかなあ」と、こんなに長い付き合いなのにまだ母のことを理解していない奥さんの寝言を聞き流しながら試しに車を入れてみると、玄関の窓がパンと開いて網戸越しに母の顔が現れた。
「あ!そことめないで!」
僕は奥さんの顔を見て肩をすくめた。嫁よ、久しぶりに会う息子のためにカーポートを空けておこうなどという細やかさは俺の母にはないのだ。僕は車をカーポートから出し、藪に横付けした。
「誰か来るの」
「あれ、取ってくれるんだって」
と外に出てきた母が上を指差す。
「あれ?」



「○平(兄の名)がやるやる言ってたのに、アイツ全然やってくんないからさー」
兄は最近結婚して子供が出来、近くの町で愛と平和に満ちた暮らしをしている(はずだ)。
「やれったって、どうやんだよ。あんなの」
「市に電話したらさ、『自己負担でどうにかしろ』、だって。なーんもやってくんないんだよ?なんなの?税金返せって感じ」
幸い、スズメバチはもうどこかへ行ってしまって巣は空っぽの状態らしい。それが本当なら長い脚立があれば僕にでも何とか出来そうだが、屋根まで届く脚立なんてここにはない。
「で、誰が取ってくれるって?近所の人?」靴を脱ぎ脱ぎ僕は訊いた。
「ちがうちがう」
お茶の用意をしながら母が話したところによると、数時間前、ご近所さんの何かの工事に来ていた何かの業者の人が、通りがかりに偶然この蜂の巣を発見し、母に声をかけたとか。
タダでやってくれるのかと訊いたら構わないと言われたので頼んだそうだ。
ときどき世の中にはそういう親切な人もいるんだ、なんて話しながらお茶を飲んでいたらインターホンが鳴った。
「見学する?なかなか見れないよ、こういうの。ブログのネタにしなさいよ」と母が言うので奥さんと僕も上着を着て外に出た。
帽子を被った作業着姿の男が二人立っていた。1人は若く、1人は中年だった。
3人並んで頭を下げて、さっそくお願いした。

二人は慣れた手つきで脚立を構えて登り、蜂の巣をノコギリで切除した。
やってみるとあっという間だった。
蜂の巣は落下し、物置の屋根に当たって駐車スペースに転がり落ちた。

衝撃で蜂の巣が割れた。

チョコレートのデコレーションケーキみたいな断層にその場にいた全員が「わあ」と感嘆の声を上げた。
「自然の芸術作品ねー」
つまんで持ってみたが、紙みたいな軽さでビックリした。
それにしても袋も持たずに上に上がって、ノコギリで切断して地面に落っことすやり方ってどうなの?・・・と内心思ったが、タダでやってくれただけでもありがたいので黙っていた。
イヤ、ありがたすぎるから、何か礼を渡したいなと思って、僕だけこっそり部屋に戻り、母の手土産に買ってきたお菓子と、「御礼」と書いた封筒にお金を少し入れてポケットに忍ばせた。
また外に戻ると、
「ありがとうございました」と奥さんと母が頭を下げて礼を言っていた。僕も遅れて礼を言った。
「いや、自分たちも気になっていたので、お助け出来て何よりでした」と若い方の男が言った。
「それで、あの、、」と続けて若い男のほうが切り出すように母に向き直って
「電力自由化に伴いまして、今回、電気代がお安くなるプランニングをさせて頂きたく回らせて頂いているですけども。これから東京電力さんから他の電力会社に変えられるようになるのはご存知ですか?」
残念そうな困ったような色が母の顔の上に浮かんだ。
「いいのよ、うちは。間に合ってるから」
「でもまあ今回、こういうお手伝いもさせて頂いたということもあり・・・」
男のセールストークが始まった。
やっぱりそうなるのね・・・と思ったけど、いい人そうだったので話だけでも聞いてあげようかな、と思って僕は黙ってそこに立っていた。母は男勝りのズケズケ言う性格だから断るのなんか訳はないだろうと思っていたし、実際、こうしている間にも何度も明確な意思表示をしていた。
しかしその男も頑張り屋さんで、悪く言うと、しつこかった。
2度3度と母が断っても諦める様子がないので、僕が割って入った。
さっきポケットに忍ばせておいたお菓子を取り出して二人に渡し、政治家みたいに熱くお礼を言った。
「こんな大仕事してくれた人を手ぶらで返すわけには行きませんよ!」
それから、若い方の男に封筒を渡した。
男は戸惑って封筒を返そうとしたがごり押しで受け取らせた。
僕は深々と頭を下げて礼を言った。
「ありがとうございました!」
二人はやっと背を向け、車に乗り込んだ。

営業の大変さは僕にもよく分かる。だから別に彼らを悪く言うつもりはない。スズメバチの巣を除去してくれたことは恩に着る。
しかしそれと新しい電力会社云々は別の話である。
そんなことは相手もわかっている。
だから「とっかかり」が必要で、蜂の巣を足場に、本丸に攻め入ろうとしたのだ。
こんなのは営業マンなら誰でもやっていることである。咎めるべき点があったとしたら、それは彼が少し、引き際をわきまえなかったことくらいであろう。
そんなことより僕が思い知ったのは、「女の1人暮らし」の危うさについてである。
二十歳そこそこの上京娘に使うような言葉だけど、ある意味、若い娘のほうが安心だろう、年配の「女の1人暮らし」に比べれば。
奥さんの母(僕からしたら義母)も、1人で住んでいて、庭の剪定を頼んだ造園業者に見積もりよりずっと高い値段を請求され、すったもんだの末、奥さんの妹が出て行って蹴散らした。
年配ではないうちの奥さんでさえ、1人で庭に出ているとき、「近くの現場で作業していて偶然通りかかった」と名乗る男に、瓦が歪んでいるからどうにかした方がいいと言われた。
どうにかしようにも借家だからこっちにそんな権限はない。「大家さんに聞かないと・・・」と言ったらそれで向こうは引き下がったとか。

女性が1人で住む、それも集合住宅でなく一軒家に1人で住む。
気ままなようだが、怖い面もある。
うちの母は気丈夫で健康的で、精神年齢は多分僕より若いが、それでも「タダで蜂の巣を取ります」という言葉を額面どおり受け取って、頼んでしまった。何か勧誘されたら断ればイイ、と母も思っていたに違いないが、断り切れただろうか?「蜂の巣を除去してあげたじゃないですか」と言われてもなお。
まあ・・・ああいう性格だから警察でも何でも呼びそうだけど、気の弱い女性なら相手を傷つけたくないと、言われるまま契約してしまうのではなかろうか。。

一人は寂しいから、誰かに親切な言葉をかけられたら嬉しい。
でもシングル住まいの女性には覚えておいて欲しい。
彼らはあなたが1人暮らしであることを最初から知っているし、相当、ナメてかかっているということを。オバサンの1人くらいチョロイ、と思っていることを。
善意を装っていても、本音ではカモとしか見ていない。

しかしもし100%善意で申し出てくれる気の効く優しい男性が現れたなら、
デートしてボディガードに雇ったらいい。

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2016.02.22 | | 未分類(日常、随筆)

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